【2023改訂】顎骨壊死検討委員会ポジションペーパーのトピック解説|骨と歯の健康連携ポータル

【2023改訂】顎骨壊死検討委員会ポジションペーパーのトピック解説

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◇はじめに◇

 

2023年7月に薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)の病態と管理に関するポジションペーパー(以下PP)が7年ぶりに改訂されました(PP2023)。このPPとは、専門学会に所属するエキスパートが、これまでの研究成果や経験に基づいて議論を重ね、学会としての立場・見解を述べた論文です。MRONJが最初に報告されてからまだ20年と歴史が浅く、予防や治療に関する考え方や取り組みが変化するため、最新の情報を取り入れる必要があります。その観点からPP改訂のトピックスを簡単に紹介します。

 

◇改訂後PPのトピックスについて◇

 

MRONJの原因薬剤として知られる骨吸収抑制薬(ARA)とは、がんの骨転移や骨粗鬆症の治療に用いられるビスホスホネート(BP)やデノスマブを指します。ARAは骨の代謝を抑制しますので、抜歯窩やインプラントの治癒過程を遅らせ、稀にではありますが、MRONJを発症するリスクがあります。

BPは、がんの骨転移には注射で、骨粗鬆症には経口で投与され、当初は前者でのMRONJが大部分でした。がんの骨転移には高用量で投与され、MRONJのリスクが高いのは間違いないのですが、骨粗鬆症に低用量(経口だけでなく注射のARAも増えてきました)で投与される場合でも、長期に及ぶとMRONJを発症する患者は増加し、最近では低用量、つまり骨粗鬆症にARAを投与されているMRONJ患者数の方が多くなっています。

MRONJ発症のリスク因子として、従来は抜歯やインプラント埋入などの侵襲的歯科処置が重視され、本来抜歯すべき歯であるにもかかわらず歯科で抜歯してもらえない「抜歯難民」を多数生じました。その結果、抜歯していないにもかかわらず、MRONJを生じる患者が増加しました。「抜歯はMRONJの発症を促すのではなく、MRONJを顕在化させる」と考えられるようになり、PP2023では、「治療として抜歯を必要とするような根尖病変や歯周病、インプラント周囲炎などの感染性歯科疾患の存在がリスク」とされました。

また、MRONJは「難治性で手術すると悪化する」と考えられていましたが、外科的治療で「治癒」をめざせるようになってきました。潜在しているMRONJを抜歯によって顕在化できれば、早期に治療開始できる、というのも重要な視点です。

抜歯前2~3か月間の低用量BPの休薬でMRONJの発症が有意に減少しなかったことや、ARA休薬による待機期間中に顎骨骨髄炎や顎骨壊死が進行するリスクも考慮し、PP2023おいては「原則として抜歯時にARAを予防的に休薬しないことを提案する」、とされました。

MRONJは文字通り「薬剤」に関連する有害事象なので、薬剤師が連携に加わり、医師、歯科医師、患者を繋ぐ重要な役割を担うことを期待されています。

 

 

図 MRONJ を予防するための医歯薬連携 (PP2023より抜粋)

 

 

ARA投与中の休薬については上述の通りですが、ARA開始「前」であればゼロリスクです。PP2023では、「原則として骨粗鬆症治療を開始する患者は全例が歯科スクリーニングの対象」とされました。本記事ではPP2023の概要としてトピックスを解説しましたが、PP2023の詳細については日本口腔外科学会のHP上(https://www.jsoms.or.jp/medical/work/guideline/)で閲覧可能です。なお、閲覧以外の使用の際はページ記載の注意事項を必ずご確認ください。

 

 

監修:岸本 裕充 先生

 

 

兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 主任教授

 

【略歴】

1989年 3月 大阪大学歯学部卒業
1989年 6月 兵庫医科大学病院臨床研修医(歯科口腔外科)
1996年 9月 兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 助手
2002年 1月〜2004年 1月 米国インディアナ大学医学部外科ポスドク
2005年 4月 兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 講師
2009年 4月 同 准教授
2013年 4月 同 主任教授、現在にいたる

日本口腔外科学会認定 口腔外科専門医、同 指導医
日本口腔インプラント学会認定 専門医、同 指導医
ICD制度協議会認定 インフェクションコントロールドクター

日本口腔感染症学会
日本口腔外科学会
日本歯科薬物療法学会
日本口腔リハビリテーション学会
日本有病者歯科医療法学会
口腔顔面神経機能学会
日本口腔インプラント学会
日本口腔科学会
日本口腔ケア学会
日本顎顔面インプラント学会
兵庫県病院歯科医会

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