【2023改訂】顎骨壊死ポジションペーパーのFAQ<vol.1>|骨と歯の健康連携ポータル

【2023改訂】顎骨壊死ポジションペーパーのFAQ<vol.1>

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Q.  PP2023で、「原則として骨吸収抑制薬(ARA)の予防的休薬(※筆者注)をせずに抜歯する」と提案された理由を解説してください。

 

A. いくつもの研究で、予防的休薬の有用性が証明されていないためです。

 

 

ARAは、がんの骨病変などの治療目的に高用量で投与される場合と、骨粗鬆症などによる脆弱性骨折の予防目的に低用量で投与される場合とがあります。

前者では、休薬すると治療効果が弱まるため休薬は難しいですが、後者では「短期間」の休薬であれば脆弱性骨折の予防効果が著しく低下するわけではないため、「抜歯前にビスホスホネート製剤を2~3か月間予防的に休薬をして抜歯」という方法が有効では、と考えられていました。

しかしながら、国内外のいくつもの研究で、予防的休薬の有用性(MRONJ発症率の減少)を証明できたものはありません。また、休薬で抜歯を待機する期間に、歯性感染症が悪化(場合によっては骨髄炎が骨壊死に進展)する可能性があります。短期間の休薬であれば脆弱性骨折の予防効果が著しく低下するわけではないですが、患者が再開を希望しないと、骨折のリスクが高まります。

以上から、休薬のメリット(=MRONJ発症率の減少)が明らかではなく、デメリットが考えられるため、原則として予防的に休薬しない、が提案されました。

 

抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)でも、以前は抜歯時に休薬されるのが一般的でしたが、まれに脳梗塞・心筋梗塞のような致死的な合併症を生じることから、休薬しない場合に比較して抜歯後出血のリスクは高まるものの、休薬せずに抜歯することがガイドラインで推奨されています。

抗血小板薬であるアスピリン製剤では、血小板の寿命から1週間から2週間休薬すると、その効果はほぼ消失し、休薬の効果(=抜歯時の止血しやすさ)を実感できました。ただ、1日くらい休薬しても休薬の効果は、ほとんどありません。

ビスホスホネート製剤は骨に強力に沈着することが知られており、短期間(2~3か月間)では、休薬の効果が現れにくいのかもしれません。

 

兵庫医科大学病院のShudoらの研究では、経口ビスホスホネート製剤を休薬せず抜歯した前向き研究において、抜歯後にMRONJは1例も生じなかったことが報告されています。休薬なしでもMRONJを生じなかったのですが、ビスホスホネート製剤を5年以上使用していた患者群では抜歯窩の治癒(≒上皮化)が遅延したため、そこで感染するとMRONJに至るリスクもあったことには注意すべきでしょう。

 

※筆者注:骨吸収抑制薬(ARA)を休薬する場面として、MRONJを発症した場合と、MRONJを発症していないが、MRONJを発症するリスクのある抜歯などの侵襲的歯科処置をする場合、の2つがあります。

前者は、ARAの副作用としてMRONJを発症したと考えられるため、治療時にARAの悪影響を低減する目的があり、「治療的休薬」と呼ばれます。一方、後者は、MRONJの発症リスクの低減が目的であり、「予防的休薬」と呼ばれます。

 

 

PP2023の詳細については日本口腔外科学会のHP上(https://www.jsoms.or.jp/medical/work/guideline/)で閲覧可能です。なお、閲覧以外の使用の際はページ記載の注意事項を必ずご確認ください。

 

【参考】PP改訂のトピックスを簡単にご紹介した記事はこちら ↓

https://honetoha.jp/info/0572/

 

 

監修:岸本 裕充 先生

 

 

兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 主任教授

 

【略歴】

1989年 3月 大阪大学歯学部卒業
1989年 6月 兵庫医科大学病院臨床研修医(歯科口腔外科)
1996年 9月 兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 助手
2002年 1月〜2004年 1月 米国インディアナ大学医学部外科ポスドク
2005年 4月 兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 講師
2009年 4月 同 准教授
2013年 4月 同 主任教授、現在にいたる

日本口腔外科学会認定 口腔外科専門医、同 指導医
日本口腔インプラント学会認定 専門医、同 指導医
ICD制度協議会認定 インフェクションコントロールドクター

日本口腔感染症学会

日本口腔外科学会

日本歯科薬物療法学会

日本口腔リハビリテーション学会

日本有病者歯科医療法学会

口腔顔面神経機能学会

日本口腔インプラント学会

日本口腔科学会

日本口腔ケア学会

日本顎顔面インプラント学会

兵庫県病院歯科医会

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